BEHIND
STORY
私たち松山油脂が、畑違いのサーフワックスをつくったきっかけは、ふとした偶然、ちょっとしたご縁でした。徳島県の浜で、ローカルサーファーと出会ったことから話はスタートします。なぜ徳島だったのか、それはおいおい話すとしますが、松山油脂にもサーフィンをするスタッフがいて、徳島の浜にも出かけてみたのです。そこで話をしたのが、とあるローカルサーファーでした。太平洋に面した徳島の波、海を初めて経験するスタッフを、みんな親身になってサポートしてくれたといいます。では、なぜ徳島なのでしょう。
徳島県の佐那河内村には、私たちがつくった「山神果樹薬草園」があります。和柑橘の栽培や有用性を研究しながら、精油や飲料・食品、酒類の製造をする農園です。「担い手不足で収穫できない」「規格外で出荷できない」などの理由で活用されていない、柚子をはじめとする和柑橘を集め、精油や飲料・食品など価値あるものに生まれ変わらせてすべて使いきる。その収益を農家に還元する循環型農業で、里山を元気にすることも目指しています。
私たちが徳島に来たきっかけ、山神果樹薬草園のことなど会話を重ねるうちに、私たちが石けんやスキンケア製品をつくっていることに話が及びました。「サーフワックスにそっくりな、丸型の石けんもあるんですよ」「ということは、サーフワックスもつくれるんじゃないですか(笑)」。最初はそんな笑い話で終わるのかと思っていました。けれど、親しさが増すなかで、サーファーの想いに触れたのです。
「私たちは自然のなかで遊ばせてもらっている。だから、使う物はできる限り自然な物にしたい。サーフワックスにはたいていパラフィンが使われていますが、それがベストなのか気になります」。サーフワックスに使われているパラフィンは石油系で、水となじみにくい性質をもっています。化学構造的に安定しているため変質しにくく、防水性や防湿性もあります。ただし、分解にはやや時間がかかります。一方、石けんの原料は動植物性の油脂で、パラフィンに比べ分解性があります。
もちろん、サーフワックスと石けんはまったくの別物、石けんの原料がそのまま使えるわけではありませんが、油脂をはじめ、化粧品原料に関する何らかの知識は役に立ちそうです。製造技術にも生かせそうなものがあるとピンときました。モノづくりへの張り合いが生まれた瞬間です。東京に戻ったスタッフは、墨田本社研究開発部にサーフワックスの処方開発を託しました。自然由来原料であること、ただし、それに甘えずグリップ力と持続力などのサーフワックスとしての性能が既存品と同等であること、長く愛用できる価格であることが条件です。
固形石けんの処方開発経験が豊富なスタッフが担当になりましたが、サーフワックスは未経験。原料の組み合わせは油脂とロウ、と目途を立てることができましたが、バランスを見極めるには愚直に試作を繰り返すしかありません。つくってはボードに塗り、人工海水をかけて凹凸と粘着性を確認。ベースコートの試作は100回以上。海でのフィールドテストでは何度も不合格となりながら10か月かけて処方が決定しました。
製造は松山油脂富士河口湖工場が担当しました。古くからの石けんのつくり方「枠練り製法」を活用するのです。「原料が溶けきらない」「固めたワックスに空洞ができていた」などのトラブルがいくつも起こり、そのたびに工程を組み換え、それに合わせて作業手順・内容を見直してきました。「初めて固化が成功した時には、大きな壁を乗り越えたと思った」とスタッフは言います。ちなみに、富士河口湖工場では、地下200メートルの深井戸から富士山の伏流水をくみ上げて使っていて、スタッフの水への想いはひとしおです。徳島の海と富士山の伏流水。遠く離れている一方、「水でのつながりを感じた」「きれいな海で使ってほしい」というスタッフの思いも添えて、オルタナサーフワックスを発売しました。